50周年特別企画 Special 50th Anniversary Plans

一橋大学 名誉教授  石倉 洋子 先生

一橋大学名誉教授でもあり、国際経営学者として活躍されている石倉洋子先生に、「グローバル人材の育成」、「海外体験の意義や意味」についてインタビューさせていただきました。

海外との出会い

―これまでのご経験の中で、留学や海外生活を通じて得られたものについてお聞かせください

私は子どもの時から海外に行きたいという思いがありました。より英語を学びたいということで上智大学に進学しましたが、当時は学生運動が盛んで学校封鎖がありましたので、その間にアルバイトをして留学資金を貯め、交換留学でアメリカのカンザス州に行きました。
留学先の大学はカトリックの女子大で、私はそこで社会学を学びました。その時の先生がシスターを辞めて先生になられたという経歴の方で、非常にラディカルというかリベラルな方で、カンザスシティーの黒人貧民街に場所を借りてコミュニティーセンターを開いていました。私は授業のプロジェクトの一環で黒人の牧師の方にインタビューをしたのですが、ホームドラマで観るような白人の家族が裕福に暮らしているイメージとは全く異なるアメリカの現実を知ることになりました。その後、そのセンターに居候させていただき、そこで自分としては初めてのボランティア活動を行いました。エアコンが無いような貧しい地域のアパートは、夏室内がとても暑くなるので、そういった地域の子ども達を夏休みの期間にプールなど色々と無料の施設を探してそこへ連れて行くような活動です。自分と一緒にそのボランティアをしていたのは地元の高校生の女の子でしたが、とても優秀で、しっかりした子でした。自分は大学生でしたが、その子から学んだこともたくさんありました。今から思えば、そこでの経験は文化の多様性を知る非常に良い機会になったと思います。

また、留学経験の中で、自分の意見をきちんと主張することの大切さを非常に感じました。アメリカに行った当初、観た映画の感想など、小さな事でも何でもよく質問され、どうやって答えれば良いのか分からず最初は混乱しましたが、途中からただ意見を聞かれているだけで「正しい意見」を求められているわけではないということに気づきました。意見をいう習慣が身に付いたことは現在の自分に至るための重要な経験だったと思います。自宅や日本から離れた全く知らないところでも一人で、なんとかこなせたということが自信に繋がりました。

グローバル人材を育成する意義についてお聞かせください

―グローバル人材の育成にはどのようなことが必要でしょうか

グローバル人材になるための要件を議論しても意味の無いことです。私は全てにおいて実践がカギだと思っています。若い世代に対し、いかに実践をできる機会を大人がより多く与えるか。それは小さなことでいいんです。最初は小さなタスクを与え責任を持たせ、それを実践させることで、リーダーシップやイノベーションの感覚が身に付いてくると思います。

―英語の重要性についてお聞かせください

私は英語を身に付けることよりも、まずは他人とは異なる自分の意見を持ち、発言するところから始めるべきだと思っています。発言しなければ、その場にいないのと同じでその場に二度と呼ばれなくなります。世界ではそれが当たり前になっていることを理解していない日本人が多い気がします。

意見を言う部分と英語とを両面作戦でやればいいのではないでしょうか。子どもを対象にすると20年かかりますが、少子高齢化が進み人口が減ってきている日本にはそんな余裕はありません。まずは、どんどん若者を海外に送ること。基本的に若い人はポテンシャルがあるので、ほとんどの人は、海外に行っても何とか自分自身でやっていけるようになるんです。そういった経験をすることによって、世界を体感しグローバル人材になっていくのだと思います。

世の中はITの発達により劇的に変化しました。その中で日本は人口が減って高齢化が進み、ポジションや機会が少ないわけだから外に出ていくしかありません。成長市場で戦う方が勝てる割合が圧倒的に高く、狭くて小さな市場で戦うことは競争が厳しいことだと誰でも簡単にわかることです。日本の問題は失われた20年の間に、内向きになって外へ出て行かなくなったため、世界が大きく変わっていることに気がつかなかったことです。だから英語やグローバル世界への実感がないのだと思います。英語が出来る人が増えてはきましたが、全体的に見た場合、韓国や中国に比べたら割合がとても低いです。私は、「英語をやらないと駄目よ」というと、日本人の場合は脅威に感じたり、間違いを恐れて実践できない人が多いので、そういう言い方はせずに、最近は「英語が出来たら、今あなたが住んでいる箱庭の世界が広がるんじゃないの」と言うようにしています。私は“完璧の呪縛”と呼んでいますが、日本人は完璧に出来るようになるまで、使っては駄目だと思い込んでいる人が多いですが、今はどんな分野でも “正しい答え”が出るまで待つということは通用しない時代になっています。

読者へのメッセージ

―今の若者に伝えたいことをお聞かせください。

「やりたいことがみつからない」「好きなことがわからない」と言う人がいますが、私は何でも手当り次第、まずはやってみればいいと思っています。やってみれば自分はこれは好きじゃないということもわかるし、逆に本当に好きなこともわかってきます。“これこそ誰でも好きであるべきこと”や”正しい答え”が、どこかにあるのではないかと思い込んで何もせず悩んでいる間に、世界は物凄いスピードで変化しているのでそれでは取り残されてしまいます。
インターネットで世界が繋がり、世の中が変わり、人口動態も変わり、テクノロジーも変わって、昔では考えられなかったことが可能になってきています。仕事についても今ある半分は無くなりそれに替わる新たな仕事がどんどん出てくると言われていますし、実際にそのような変化が起こってきています。そのためには新たな知識やスキルが必要になるので、オンラインで学んだり、オンラインコミュニティーを作ったり、色々な方法で学びを続けることが大事です。私にとっては新しいことを学ぶことはすごく楽しく喜びなので、そういうエキサイトメントを若い人にも知ってもらい楽しく学び続けて欲しいと思います。

未来は予想するものではなく、自分たちで作るものです。特に今のような時代は“どんな道を歩むべきなのか”“正しいやり方は何か”をわかっている人は誰もいません。だからこそ、自分たちがこういう世界を作ろう、こういう未来を作りたいと強く思えば絶対に実現できます。必ず出来ると思うんです。

―どうもありがとうございました。

  • 石倉 洋子 先生
  • 石倉 洋子 先生

    一橋大学名誉教授

    上智大学外国語学部英語学科(BA)、バージニア大学大学院経営学修士(MBA)、ハーバード大学大学院 経営学博士(DBA)修了。マッキンゼー社でマネジャー。青山学院大学国際政治経済学部教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。

    日清食品ホールディングス、ライフネット生命、双日社外取締役、世界経済フォーラムのGlobal Agenda Councilのメンバー。「グローバル・アジェンダ・ゼミナール」「ダボスの経験を東京で」http://dex.tokyo など、世界の課題を英語で議論する「場」の実験を継続中。専門は、経営戦略、競争力、グローバル人材。

    主な著書に、「戦略シフト」(東洋経済新報社)、「グローバルキャリア」(東洋経済新報社)、「世界級キャリアのつくり方」(共著、東洋経済新報社)等。

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